『プリンス ビューティフル・ストレンジ』ダニエル・ドール監督インタビュー「天才の裏にある歴史的な背景を描きたかった」
ファンクとロックとソウルを融合させ、音楽に革命をもたらしたミュージシャン、プリンスの真実に迫る傑作ドキュメンタリー『プリンス ビューティフル・ストレンジ』が現在絶賛公開中。
本作は、住民の90%が白人というアメリカ・ミネアポリスで多感な青春時代を過ごした孤高の天才プリンスが、如何にして数々の偉業を打ち出すミュージシャンに成長していったのか、地元のブラックコミュニティ“ザ・ウェイ”での音楽的な原体験、恩師や家族が語る幼少期のエピソード、チャカ・カーン、チャックD、ビリー・ギボンズなど、プリンスを敬愛するミュージシャンたちのインタビューを交え、その存在に迫るドキュメンタリー作品。
今回、D会議室では本作を手掛けたダニエル・ドール監督に話を聞くことが出来た。
ダニエル・ドール監督
カナダ・トロント在住。映画・TV 業界で長年に渡り活躍し、北米でポスプロ会社や空撮専門のヘリコプター会社など、映像に特化した複数の企業を設立し、プロデューサー/監督として数々の長編映画や TV 番組を手掛けている。主な作品として、カルト的人気を誇る SF 長編『レプリケーター』(1994)やワールドフェスト・チャールストンで金賞を受賞した TV 映画『Falling Fire』(1998)、全 66 話の TV シリーズ『スターハンター』(2000 年)など。現在も新たな TV シリーズやボブ・マーリーのドキュメンタリー製作など、新作リリースに向けて意欲的に活動中。
■製作の経緯について
私とプリンスは同年代なんですが、当時はあまり興味がなかったんです。というのも、プリンスはすごく不思議ちゃんで、風変わりな変な人だなと思っていました。プリンスの音楽はもちろん知っていましたが、昔はロックンロールとかブルースの方が好きだったので、あまりプリンスに対してそういった興味は持っていませんでした。
今回の映画は、プリンスの最初のバンドメンバーだった、デズ・ディッカーソンとアンドレ・シモン、さらにその友人たちがプリンスの映画を作りたいと思っていたところから始まり、後に私に声が掛かったんです。彼らは映画を作ったことがなかったので、最初はどちらかというとビジネス的なところ、事務的なところを私がやろうと思っていたんですが、そこの部分だけでは賄えなくなり、どんどん問題が浮上してきたので、そこをクリアにしていくために色々と動き出していきました。
プリンスのファンコミュニティに出向いて、色々とリサーチをして、インタビューをする人を探してたとき、ファンと一緒にディナーに行ったんですが、最初私はモンスターのように警戒されていました。プリンスの芯のところが見えていないんじゃないかと思われていたんです。ファンの話を聞いていくと、彼がただセクシーでヒップな音楽家というだけではなく、この天才の裏にはやっぱり歴史的な背景、そういう人間的なところがあるんじゃないか?そこを描きたいと思うようになりました。そのうちに、ファンとも打ち解け、寛大にいろいろと話してくれるようになりました。
■プリンスを育てたスパイク・モスとザ・ウェイ
誰でも小さい頃に何かしら苛められたりとか、自分のコンプレックスや自尊心を傷つけられるようなことがあったと思うんですが、プリンスも人間なので、そういった生い立ちなどを探っていったら面白いのではないかと思いました。
そこで出会ったのがスパイク・モスでした。プリンスにとって父親的な存在で、ザ・ウェイ(地元ミネアポリスの黒人向けコミュニティ・センター)を創設した偉大な方です。スパイク自身もすごく成功したボクサーで、モハメド・アリと戦ったりとか、多くのスターや億万長者と交流を持っていたんですけれども、そういったすごいキャリアを捨てて、ストリートにいる道を踏み外している子供たちに将来性や自尊心を持ってもらいたいとザ・ウェイを立ち上げたんです。
彼は子供達にロールモデルになる尊敬できる人を見つけてほしいと思っていました。ザ・ウェイで学んで成功した人はたくさんいます。例えば議員だったり、ボビー・ブラウン、ジミー・ジャン、ケリー・ルイスとか、そういった偉大な人たちも輩出しているので、今度は彼らがコミュニティに戻って、学んだことを子供たちに教える立場に回ってもらいました。ただ、残念ながらザ・ウェイは後に警察署になってしまって・・・。
プリンスとスパイク・モスはまたザ・ウェイみたいなコミュニティセンターを作ろうと計画していたんですけど、その矢先にプリンスが亡くなってしまって。それに対してすごくスパイクも心残りというか、自分の子供のような存在のプリンスがいなくなってしまったのでね。
スパイク・モスと出会えたのは本当に感無量というか、僕にとってもスパイク・モスが恩人になり、みんなにとっても恩人なんだなというのをこの映画を作る上で感じました。
■彼の人生のテーマは「LOVE&UNITY」
プリンスはレイシズムというものを幼少期に感じたことがないって言っているんですが、それはザ・ウェイがあったおかげなんです。あそこで守られ、そういった経験をしなくて済んだんです。初めてレイシズムを体験したのが学生時代で、ユダヤ系の子が苛められているのを見て、「あ、これがレイシズムなんだ」とそこで認識したぐらいだったそうです。
プリンスは音楽をシェアするうえで、一番メッセージとして打ち出していたのは、LOVE&UNITY(愛と一体感)でした。愛の真実の意味というのを、プリンスは世界中に広めていきました。プリンスのファンも彼をカルトとは見ていなくて、本当にプリンスがファンを気にかけていたから、彼らもその愛に応えていたんじゃないかなと思っています。
プリンスは亡くなった時、残金が3億ドルぐらいしか残っていませんでした。大金ではあるんですけど、もっとあってもおかしくないんですが、彼はお金をほとんど慈善活動に充てていたんです。本当に“ゴースト”フィランソロピストっていうぐらい隠れ慈善活動をやっていて。でも彼は自分がそういった活動をしていることを絶対打ち明けてはいけないと周囲に言っていました。この映画にも出てくるサムというファンがいるんですが、彼女も貧困な家庭で育って、お母さんと一緒に家から追い出されそうになったんですが、プリンスが「家がないんだったらここにいればいいよ」と居場所を与えたんですが、そういった話しが沢山あるんです。
何百人もの人たちをプリンスは助けていました。それくらい寛大な人だったんですね。そういったところも含めて、LOVE&UNITYの精神で、地元ミネアポリスでもパーティーを定期的に行っていたんですけど、そこに集うファンの人たちも10代から80代まで様々な年代や人種の人たちが参加しているってこともすごくユニークで親和性を感じました。プリンスの粗を探して嫌なところを描こうとする人たちが多い中、やっぱり僕はこの映画を通して、プリンスを讃えるような作品に仕上げたいと思ったんです。
もちろんそもそも奇才な人だったので、様々なミュージシャンが口を揃えて「プリンスは本当に素晴らしい」、「僕たちよりも素晴らしいミュージシャンだった」って言うくらい、27種類の楽器を演奏できたりとか、そういったすごい才能で素晴らしい音楽をたくさん作ってくれました。ボールトと呼ばれる彼の金庫には膨大な未発表楽曲が貯蔵されているので、100年後でも新譜をリリースできないんじゃないの?と言われるほどです。
本当にプリンスみたいな、すごいアーティストっていうのは今までいなかったので、今回のドキュメンタリーで彼を描くことが出来て良かったと思っています。
ダニエル監督インタビューの完全版は、後日アップされる動画版でお届けします!
世界中が悲しみの雨に濡れた、突然の悲劇から8年…。
孤高の天才“プリンス”の真実に迫る傑作ドキュメンタリー
2016年4月21日、57歳の若さで急死した天才ミュージシャン・プリンス。80年代、自伝的映画『パープル・レイン』、同映画サントラのメガヒットで、一躍世界的スーパースターに。公式発売されたアルバムのトータルセールスは1億5千万枚。12枚のプラチナアルバムと30曲のトップ40シングルを生み出し、7度のグラミー賞を受賞。2004年にはロックの殿堂入りを果たすなど、生涯ロック・ポップス界の頂点に君臨し続けた。ポール・マッカートニーが“クリエイティブの巨人”と称し、エリック・クラプトンが“世界で最高のギタリストの一人”と賞賛するなど、マニアを公言するビッグネームは数知れない。ロック~ポップス~ファンク…あらゆるジャンルの垣根を飛び越え、実験性と大衆性を同時に奏でる真の天才だった。アメリカ・ミネアポリスで誕生したプリンス(本名:プリンス・ロジャーズ・ネルソン)は、住民の99%が白人という環境下で、多感な青春時代を過ごした。公民権運動の渦中、ジェームス・ブラウン等の黒人ミュージシャンも時折訪れた、地元のブラックコミュニティ“ザ・ウェイ”での音楽的な原体験、恩師や家族が語る幼少期のエピソードは、興味深いものばかりだ。チャカ・カーン、チャックⅮ、ビリー・ギボンズなど、プリンスを敬愛するミュージシャンの貴重なエピソードも多数収録。孤高の天才が、如何にして誕生したのか、そして突然の悲劇まで、プリンスを愛する全てのファンに贈る傑作ドキュメンタリー。
出演:プリンス、チャカ・カーン、チャックⅮ、ビリー・ギボンズ 他
監督:ダニエル・ドール
原題:Mr. Nelson On The North Side
2021年/カナダ/英語/68分/16:9フル/ステレオ
提供:キュリオスコープ、ニューセレクト
配給:アルバトロス・フィルム
公式HP:https://prince-movie.com/
©PRINCE TRIBUTE PRODUCTIONS INC.