「TBSレトロスペクティブ映画祭 実相寺昭雄特集」5月3日(土)上映後アフタートークイベントレポート!桜井浩子が明かす、実相寺昭雄との思い出と“怪獣”の哲学

2025年5月3日(土)、Morc阿佐ヶ谷にて開催中の「第2回TBSレトロスペクティブ映画祭」実相寺昭雄特集の2日目のゲストには、『ウルトラQ』や『ウルトラマン』など円谷作品のヒロインとして知られ、晩年は実相寺監督の映像作品に多数出演・コーディネートも行った女優・桜井浩子が登壇。聞き手は、本映画祭を企画・プロデュースした佐井大紀が務めた。

上映作品「ウルトラQのおやじ」は、特撮の神様・円谷英二に密着した貴重なドキュメンタリー。上映を終えたばかりの会場は熱気に包まれ、桜井は「大画面で観るのは初めて。涙が出そうになった」と語り、作品を支えた関係者たちの思い出を鮮やかに蘇らせた。

桜井は、実相寺監督を「人の懐に自然と入り込む不思議な人」と振り返り、「仲間というより“変なおじさん”だった」と会場の笑いを誘う一幕も。特に印象に残っている演出家像としては「段取りしか言わない。感情表現などは全て役者に委ねてくる人だった」と語った。

トークではさらに、特撮黎明期の制作体制やキャスティングの裏話が次々と明かされた。『ウルトラQ』や『ウルトラマン』の制作にまつわる資金難、キャストの“出向”制度、金城哲夫との関係性など、当時の現場のリアルな証言が次々と飛び出した。

「ウルトラシリーズが今日まで続いたのは、英二監督とその息子・一さん、そして金城さんがいたから」と語る桜井。「怪獣はただ怖いだけじゃない。悲しみや性格もある存在」と、作品に込められた“怪獣観”の奥深さを強調した。

後半には、実相寺監督の晩年の映像作品『シルバー假面』やラジオドラマ『ウルトラQ倶楽部』のエピソードにも触れられ、彼の映像表現に対する姿勢と、音楽家・冬木透や脚本家・佐々木守らとの関係性についても、深く掘り下げられた。

「私しか話せないことがあるから、生きているうちに語っておきたい」と語った桜井の一言に、会場は深い感動に包まれた。

 

上映作品ラインナップ(作品解説・佐井大紀)

■『おかあさん』 
母親を主題にした1話完結のスタジオドラマのシリーズ。
当時この番組は、若手ディレクターの登竜門だった。今回は弱冠20代の実相寺が演出した全6作品を上映。実相寺が個人所蔵していたために上映が実現した貴重な作品もある。

・第178話「あなたを呼ぶ声」(デジタル修復版)(1962年6月14日放送)
脚本・大島渚。25歳の実相寺による記念すべきドラマ初演出作品
産婦人科で妊娠を告げられた主人公は、その帰り道見知らぬ貧しい少年に「お母さん」と呼ばれ、彼の世話をかいがいしく焼き始める。『愛と希望の街』に感激した実相寺が大島に脚本を依頼、大島からは酷評されるも、冒頭の長回しから実相寺らしい技巧的演出が光る。
脚本:大島渚
出演:池内淳子 戸浦六宏

あなたを呼ぶ声

・第184話「生きる」(デジタル修復版)(1962年8月2日放送)
後の実相寺組常連が集結、セット撮影の技巧が光るドタバタコメディ
貧乏アパートに囲われた二号の娘と、それにすがる強欲な母。そこに隣人の学生やヒモも絡み、感情むき出しのコメディが展開する。隣接する部屋のセットを縦横無尽にカメラが動き、独特の劇的空間が演出されている。石堂淑朗、冬木透、原保美と、後の実相寺組の常連たちが早くも集結。
脚本:石堂淑朗
出演:菅井きん、原保美
音楽:冬木透

生きる

・第190話「あつまり」(デジタル修復版)(1962年9月13日放送)
鳴り響くジャズと躍動的な映像で時代を切り取った、和製ヌーヴェル・ヴァーグ
ブルジョアの若者たちは夜な夜な集まり、親の金で酒や睡眠薬に耽り退廃的に過ごしていた。その中で、自身で生活費を稼いでいた女性モデルが妊娠、恋人に結婚を迫るが「堕ろせ」と一蹴される。『京都買います』の斉藤チヤ子と、若き日の田村正和のシリアスな演技にも注目。
脚本:田中堅太郎
出演:斉藤チヤ子、田村正和

あつまり

・第207話「鏡の中の鏡」(デジタル修復版)(1963年1月10日放送)
美術や画面構図を駆使して観念を表現する、実相寺アングルの原点
女優の美年子は自らを束縛する父に対して、今は亡き元女優の母の身代わりを演じさせないで欲しいと反発する。継母との関係や腹違いの兄との出会いから、彼女は自らのアイデンティティを模索していく。観念的なテーマを、異様に細長い食卓や鏡合わせを駆使して演出する実相寺の手腕が光る。
脚本:須川栄三
出演:朝丘雪路、和田周

鏡の中の鏡

・第212話「さらばルイジアナ」(デジタル修復版)(1963年2月14日放送)
主演・原知佐子。目元、口元、オペラ…実相寺演出が炸裂する鮮烈な人間ドラマ
神学校の寮を舞台に、学生と若く美しい義母の関係が鮮烈に描かれるこの作品が、後に妻となる原知佐子との初仕事だった。フィルム、VTR、生放送ブロックが混在し、当時のテレビドラマの在り方を伝える意味でも貴重。川津は緊張と興奮のあまり台詞を忘れ、鎮静剤を打って生放送に臨んだそうだ。
脚本:田村孟
出演:原知佐子、川津祐介
音楽:八木正生

さらばルイジアナ

・第236話「汗」(デジタル修復版)(1963年8月8日放送)
音楽番組風のセットで臨んだ、姉妹の強烈な愛憎劇
堅実に生きる姉と破天荒な妹の対立を、団地を舞台に繰り広げる人間ドラマ。一部ロケ映像を含んだ生放送のスタジオドラマだが、音楽番組のようなセットを組んで様式美・実験的なスタイルを貫いている。「坂本九ショー」と見比べると、当時実相寺はドラム缶がお気に入りだったこともわかって面白い。
脚本:恩地日出夫
出演:稲垣美穂子、加賀まりこ 

■『7時にあいまショー』「坂本九ショー」(HDリマスター版)(1963年6月8日放送)
ドラマ風の演出で魅せる、TBSに残る最古の坂本九出演の音楽番組
手持ち長回しを駆使した九ちゃんのヒットメドレーや、司会・古今亭志ん朝の軽妙なトーク、原知佐子のナイーブな朗読などで飽きさせない構成。音楽番組なのに精巧なドラマ用のセットを組んだため、スタッフや坂本九はスタジオが変更になったと思い込み、収録に遅れてやって来たという逸話もある。
構成:永六輔
出演:坂本九、古今亭志ん朝、永六輔、いずみたく
朗読:原知佐子

7時にあいまショー

■『現代の主役』「ウルトラQのおやじ」(HDリマスター版) (1966年6月2日放送)
特撮の神様・円谷英二の真髄に迫った伝説のドキュメンタリー
実相寺が円谷プロに出向するきっかけとなった作品。『サンガ対ガイラ』の撮影風景や、実相寺の上司でもある円谷の長男・一との親子対談、怪獣による円谷へのインタビューなど、構成・編集・音楽どれを取っても実相寺節全開。脚本家・金城哲夫も冒頭に出演し、構成も少し手伝ったとのこと。
出演:円谷英二、円谷一、金城哲夫
音楽:冬木透

現代の主役

 

★本映画祭の企画・プロデュース佐井大紀監督作品も同時上映

・「日の丸~寺山修司40年目の挑発~」
TBSドキュメンタリー史上最大の問題作が、半世紀の時を経て現代に蘇る
1967年放送の街録番組『日の丸』と同じ質問を現代の街中で行い、二つの時代を比較したドキュメンタリー作品。60年代の実験精神を後継し、テレビが成熟しきった今に一石を投じることを目指した。金城哲夫脚本の『ウルトラセブン』「ノンマルトの使者」も劇中で引用されている。
監督・編集:佐井大紀
出演:安藤紘平、シュミット村木眞寿美、今野勉
語り:堀井美香、喜入友浩(TBSテレビ)
イラスト制作:臼田ルリ

日の丸

・「方舟にのって~イエスの方舟45年目の真実~」
かつて「カルト教団」として大バッシングを受けた謎の集団-いま明かされる「楽園(ハーレム)」の真実
1980年、東京・国分寺市から10人の女性が突如姿を消したと報道される。彼女達を連れ去ったとされる謎の集団「イエスの方舟」。2年2ヶ月の逃避行の末、主宰者・千石剛賢が不起訴となり事件には一応の終止符が打たれる。しかし彼女たちの共同生活は、45年たった今も続いていた…。
監督・編集:佐井大紀
出演:千石まさ子、千石恵
イラスト制作:臼田ルリ

方舟にのって

<上映館>
【東京】 Morc阿佐ヶ谷 5/2〜5/22
【京都】 アップリンク京都 5/23〜6/5
【大阪】 シネ・ヌーヴォ 6/7〜6/20    
【名古屋】シネマスコーレ 近日公開

プロデュース:佐井大紀/エグゼクティブ・プロデューサー:津村有紀/総合プロデューサー:松田崇裕、小池博/協力プロデューサー:青木基晃 、石山成人/テクニカル・マネージャー:宮崎慶太/アーカイブ・マネージャー:崎山敏也、古山徹/企画:大久保竜

協力:実相寺昭雄研究会
製作著作TBS ©TBS

X:@tbs_retro
公式サイト:https://note.com/tbs_retro

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