「TBSレトロスペクティブ映画祭 実相寺昭雄特集」5月6日(火)上映後アフタートークイベントレポート!ゲストは樋口尚文!「この映像はただの記録ではなく、映像文化の生きた証言」
Morc阿佐ヶ谷にて開催中の「第2回TBSレトロスペクティブ映画祭」実相寺昭雄特集。
悪天候にも関わらず多くの観客が詰めかけた連続トークイベント5月6日のゲストは、映画評論家・映画監督の樋口尚文。聞き手は本映画祭プロデューサーの佐井大紀が務めた。
実相寺から渡されたVHS・幻の映像とスクリーンでの軌跡の上映
トークは、登壇者2人が偶然にもチャイナ服を着ていたことに触れつつ、和やかにスタート。樋口はかつて実相寺昭雄からVHSテープを手渡された思い出を披露した。
「30年ほど前かな、ある本の取材でお会いした時に、実相寺さんがゴソゴソと白いVHSを6本ぐらいくれて。なんか、裏ビデオみたいで(笑)」と語り、会場の笑いを誘う。中身は、このたび上映の『おかあさん』全作を含む若い頃に実相寺が手がけたバラエティやドラマの録画で、当時テレビ局の正式な保管には回らなかった“私的アーカイブ”だったという。
今回の映画祭では、そのVHS素材から修復された『おかあさん』シリーズ3本が上映された。樋口は「当時見た時も驚いたが、堂々スクリーン鑑賞に耐えうるものですごいなと思った」と、その映像の力に感嘆した。
また、放送局には残っていなかった映像を、実相寺が独自に保存していた経緯についても触れ、「“地方局に番販する”など会社に報告して録画していた」と佐井が暴露すると、「ほんとにひどい会社員だったんだな(笑)。でもその無茶ゆえにこんな貴重なものが観られるんですよね」と樋口が応じ、会場を沸かせた。
上映作『ウルトラQのおやじ』については、「いきなり没入してしまって、若い頃の中野さんがツヤツヤしてて…ちょっと泣けた」としみじみと語る。後の大物特技監督・中野昭慶や円谷プロ関係者の姿に、時代の空気がフラッシュバックして感じ入ったようだった。
さらに、「後の『怪奇大作戦』の傑作でピークに達する実相寺さんのさまざまな技法的な模索を、それに先立つこの『おかあさん』シリーズで大胆にやりきっている感じがする」と述べた。
イベント終盤では、佐井が若き日の特撮スタッフたちの姿に触れ、「後に時代を築く人々の“素の顔”が映っている」としみじみ。「この映像はただの記録ではなく、映像文化の生きた証言」と締めくくった。
上映作品ラインナップ(作品解説・佐井大紀)
■『おかあさん』
母親を主題にした1話完結のスタジオドラマのシリーズ。
当時この番組は、若手ディレクターの登竜門だった。今回は弱冠20代の実相寺が演出した全6作品を上映。実相寺が個人所蔵していたために上映が実現した貴重な作品もある。
・第178話「あなたを呼ぶ声」(デジタル修復版)(1962年6月14日放送)
脚本・大島渚。25歳の実相寺による記念すべきドラマ初演出作品
産婦人科で妊娠を告げられた主人公は、その帰り道見知らぬ貧しい少年に「お母さん」と呼ばれ、彼の世話をかいがいしく焼き始める。『愛と希望の街』に感激した実相寺が大島に脚本を依頼、大島からは酷評されるも、冒頭の長回しから実相寺らしい技巧的演出が光る。
脚本:大島渚
出演:池内淳子 戸浦六宏
・第184話「生きる」(デジタル修復版)(1962年8月2日放送)
後の実相寺組常連が集結、セット撮影の技巧が光るドタバタコメディ
貧乏アパートに囲われた二号の娘と、それにすがる強欲な母。そこに隣人の学生やヒモも絡み、感情むき出しのコメディが展開する。隣接する部屋のセットを縦横無尽にカメラが動き、独特の劇的空間が演出されている。石堂淑朗、冬木透、原保美と、後の実相寺組の常連たちが早くも集結。
脚本:石堂淑朗
出演:菅井きん、原保美
音楽:冬木透
・第190話「あつまり」(デジタル修復版)(1962年9月13日放送)
鳴り響くジャズと躍動的な映像で時代を切り取った、和製ヌーヴェル・ヴァーグ
ブルジョアの若者たちは夜な夜な集まり、親の金で酒や睡眠薬に耽り退廃的に過ごしていた。その中で、自身で生活費を稼いでいた女性モデルが妊娠、恋人に結婚を迫るが「堕ろせ」と一蹴される。『京都買います』の斉藤チヤ子と、若き日の田村正和のシリアスな演技にも注目。
脚本:田中堅太郎
出演:斉藤チヤ子、田村正和
・第207話「鏡の中の鏡」(デジタル修復版)(1963年1月10日放送)
美術や画面構図を駆使して観念を表現する、実相寺アングルの原点
女優の美年子は自らを束縛する父に対して、今は亡き元女優の母の身代わりを演じさせないで欲しいと反発する。継母との関係や腹違いの兄との出会いから、彼女は自らのアイデンティティを模索していく。観念的なテーマを、異様に細長い食卓や鏡合わせを駆使して演出する実相寺の手腕が光る。
脚本:須川栄三
出演:朝丘雪路、和田周
・第212話「さらばルイジアナ」(デジタル修復版)(1963年2月14日放送)
主演・原知佐子。目元、口元、オペラ…実相寺演出が炸裂する鮮烈な人間ドラマ
神学校の寮を舞台に、学生と若く美しい義母の関係が鮮烈に描かれるこの作品が、後に妻となる原知佐子との初仕事だった。フィルム、VTR、生放送ブロックが混在し、当時のテレビドラマの在り方を伝える意味でも貴重。川津は緊張と興奮のあまり台詞を忘れ、鎮静剤を打って生放送に臨んだそうだ。
脚本:田村孟
出演:原知佐子、川津祐介
音楽:八木正生
・第236話「汗」(デジタル修復版)(1963年8月8日放送)
音楽番組風のセットで臨んだ、姉妹の強烈な愛憎劇
堅実に生きる姉と破天荒な妹の対立を、団地を舞台に繰り広げる人間ドラマ。一部ロケ映像を含んだ生放送のスタジオドラマだが、音楽番組のようなセットを組んで様式美・実験的なスタイルを貫いている。「坂本九ショー」と見比べると、当時実相寺はドラム缶がお気に入りだったこともわかって面白い。
脚本:恩地日出夫
出演:稲垣美穂子、加賀まりこ
■『7時にあいまショー』「坂本九ショー」(HDリマスター版)(1963年6月8日放送)
ドラマ風の演出で魅せる、TBSに残る最古の坂本九出演の音楽番組
手持ち長回しを駆使した九ちゃんのヒットメドレーや、司会・古今亭志ん朝の軽妙なトーク、原知佐子のナイーブな朗読などで飽きさせない構成。音楽番組なのに精巧なドラマ用のセットを組んだため、スタッフや坂本九はスタジオが変更になったと思い込み、収録に遅れてやって来たという逸話もある。
構成:永六輔
出演:坂本九、古今亭志ん朝、永六輔、いずみたく
朗読:原知佐子
■『現代の主役』「ウルトラQのおやじ」(HDリマスター版) (1966年6月2日放送)
特撮の神様・円谷英二の真髄に迫った伝説のドキュメンタリー
実相寺が円谷プロに出向するきっかけとなった作品。『サンガ対ガイラ』の撮影風景や、実相寺の上司でもある円谷の長男・一との親子対談、怪獣による円谷へのインタビューなど、構成・編集・音楽どれを取っても実相寺節全開。脚本家・金城哲夫も冒頭に出演し、構成も少し手伝ったとのこと。
出演:円谷英二、円谷一、金城哲夫
音楽:冬木透
★本映画祭の企画・プロデュース佐井大紀監督作品も同時上映
・「日の丸~寺山修司40年目の挑発~」
TBSドキュメンタリー史上最大の問題作が、半世紀の時を経て現代に蘇る
1967年放送の街録番組『日の丸』と同じ質問を現代の街中で行い、二つの時代を比較したドキュメンタリー作品。60年代の実験精神を後継し、テレビが成熟しきった今に一石を投じることを目指した。金城哲夫脚本の『ウルトラセブン』「ノンマルトの使者」も劇中で引用されている。
監督・編集:佐井大紀
出演:安藤紘平、シュミット村木眞寿美、今野勉
語り:堀井美香、喜入友浩(TBSテレビ)
イラスト制作:臼田ルリ
・「方舟にのって~イエスの方舟45年目の真実~」
かつて「カルト教団」として大バッシングを受けた謎の集団-いま明かされる「楽園(ハーレム)」の真実
1980年、東京・国分寺市から10人の女性が突如姿を消したと報道される。彼女達を連れ去ったとされる謎の集団「イエスの方舟」。2年2ヶ月の逃避行の末、主宰者・千石剛賢が不起訴となり事件には一応の終止符が打たれる。しかし彼女たちの共同生活は、45年たった今も続いていた…。
監督・編集:佐井大紀
出演:千石まさ子、千石恵
イラスト制作:臼田ルリ
<上映館>
【東京】 Morc阿佐ヶ谷 5/2〜5/22
【京都】 アップリンク京都 5/23〜6/5
【大阪】 シネ・ヌーヴォ 6/7〜6/20
【名古屋】シネマスコーレ 近日公開
プロデュース:佐井大紀/エグゼクティブ・プロデューサー:津村有紀/総合プロデューサー:松田崇裕、小池博/協力プロデューサー:青木基晃 、石山成人/テクニカル・マネージャー:宮崎慶太/アーカイブ・マネージャー:崎山敏也、古山徹/企画:大久保竜
協力:実相寺昭雄研究会
製作著作TBS ©TBS
X:@tbs_retro
公式サイト:https://note.com/tbs_retro
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