【ドキュメンタリスト・ダイアリーズ #7】『タンデム・ロード』監督・撮影・編集:滑川将人

作り手たちの“生の声”をそのまま届ける企画「ドキュメンタリスト・ダイアリーズ」!作り手自らが作品で描くテーマや問題提起、想いなどを執筆した記事を紹介し、ドキュメンタリストの真髄と出会う<きっかけ>を提供します。​

今回は、バイク1台、カップルで世界一周を目指したハプニング満載ロードムービーの滑川将人監督からご寄稿いただきました!​

 

ドキュメンタリスト・ダイアリーズ #7】

監督・撮影・編集:滑川将人

茨城の山の中で育つ。物心つく頃から、じーちゃんのカブの荷台に乗ってオフロードを走っていた。そこからの流れる景色が初めての冒険の記憶。じーちゃんのバイクで遠出した先の田んぼでじーちゃんが死んでしまう。炎天下の山の中、3歳ナメ少年はこのままだと死ぬと思い家路を戻る。何度も振り返りみた、入道雲とバイクの風景が今でも鮮明に思い出せる。山の中を走りまわって幼少期を過ごす。田舎で映画館がなかったので、悪ガキどもと図書館のビデオブースにかじり付いて爆音で「スタンドバイミー」を観て、これがしたいと思う。東京に出て映画をつくる仕事を始める。仕事の合間でテントを積んでバイク旅~。そんな時、アユミと出会い、インドア派の彼女をムリくりバイク旅に連れ出していく。アユミの夢に乗っかりバイクで世界を周る二人の旅を探すことに。

 

 

■冒険の始まり

物心つくとすでにバイクに乗っていた。祖父がバイク(カブ)に乗っていて、バイク後部の荷台に箱をくくりつけて、3歳になる私を乗せて農作業に出かけるのだった。

茨城県北部の山の中で育った私は、祖父のバイクに2人乗り(タンデム)して、どこに行くにも一緒だった。林道でバイクを止めて、祖父が「見ろ、あそこにリスがいる」と指差す。子供の私はこの森の秘密を知った気持ちになり、とても興奮したものだった。

バイクの後ろから見える景色は冒険だった。

ある夏の炎天下の日、その日も祖父は私を乗せて農作業に出かけた、その日はいつもよりも遠出で、今日は暑いから、やめろと祖母が言っていた。

田んぼに到着した祖父は、土手の雑草を燃やしてくるから、危ないからバイクの側で待つようにと言った。

心細い私は、「じいちゃーん!!」と大きな声で叫んだ、すると祖父から「なんだー!」と遠くの土手から返答が帰ってくる、そんなことを何度も繰り返していた。

やがて祖父からの返答が返ってこなくなった。何度も祖父を呼んだ。

心の支えはここにバイクがあるということ、炎天下、涙と汗でもうろうとしてきた。

3歳の子供心ながら、このままでは死ぬと思った、家路をたどることを決心する。

歩き始めるも、なん度もなん度も祖父の方を振り返って叫んだ。

その時に見た入道雲とバイク、ゆっくり土手から上る煙、頬をつたう涙の感触、口走っていたひとり言まで40年近く経った今なお、昨日の事のように鮮明に記憶している。

どうにか家まで辿りつき井戸水をがぶ飲みした。

やがて、陽が傾いた頃、焼死体となった祖父が家に運ばれてきた。

祖母が泣きながら、いつも首にかけている手ぬぐいで幾度も祖父の顔の落ちる事のない煤を拭き続けていた。

そんな時3歳の子供は何を感じるのか、、、煤だらけの祖父の顔を見て、僕は何も感じなかったのである。

祖父を後目にいつものように、近所の友達の家に走って遊びにいった。

その時の空白のような感覚は、今なお心の隅に存在する。

その空白が映画制作の原動力になっているのは確かだ。

■タンデム・ロードの始まり

映画制作の現場で演出部として働くようになった私は、映像のCGの仕事をしていた「アユミ」と出会った。インドア派で、人見知り、人と関わるのが苦手な女子。

彼女にはファンタジーの世界を作りたいという夢があった。

けれども現実は一週間分の荷物を持って職場に向かい、日々の過酷さの中、心が蝕まれてゆく社畜の日々。彼女は本物(リアル)のファンタジーの世界を見てみたいと思うようになる。世界にはきっとそんな場所があるはずと、、、

心が壊れてゆく彼女をバイクの後ろに無理くり乗せるようになる。東京のビル群を走り抜け眼下に広がる景色にアユミは只々感動してた。

「夕日ってこんな色だったんだ・・・」

私自身はバイクで世界を旅するロードムービーを創りたいという目標があった。その為には「自身が旅をしなければ・・・」

お互いが人生の帰路に立っていた。どう生きていくのか・・・

そんな互いの目的が融合して、今の生活を全てリセットして、バイクで地球一周を目指すドキュメンタリー、ロードムービー「タンデム・ロード」という形になった。

■バイク旅の始まり

冒険家でもなければ、特別な人間でもない、それどころか、海外旅行すらまともにしたことも無い、英語も中学一年生レベルの2人。

ルートを考え抜いた末にアユミの実家の福島を出発して北海道からサハリンに渡り、ユーラシア大陸を横断し西回りで地球一周を目指した。ゴールはアラスカの最北端とした。

出発当時はコロナもウクライナの戦争もなかったし、ISなんて言葉も知らなかった。けれど私たちはバイクで陸路をどこまでも線で移動することで、今の世界につながる世界の息吹、躍動みたいなものを身体中で感じていた。当時はアラブの春という大きな風が世界を変えようとしていた。 

数えきれない出会いがあった。世界中の家族にお世話になった。永遠と親が子を思い、また愛する人を想う気持ち、おいしい食事を共にする。

どんな異世界だろうが人の本質は変わらない、そんな頭では理解している当たり前な事を真実として目の当たりにすると心が震えた。

モンゴルの大平原でバイクを止めて休憩していた。

私の目の前で遊牧民の老人が子どもの面倒を見ていた、その子供はまさに私であった。

涙が溢れた。

 

『タンデム・ロード』
6月13日より109シネマ木場・新宿ピカデリーほか 全国ロードショー

<作品概要>
バイクでタンデム(2人乗り)427日間、走行距離約60,000キロ、30カ国の見知らぬ土地を延々と進む。人見知りで、人と関わるのが苦手な何者でもない主人公「アユミ」が世界にバイクで飛び出し、人と世界と出会って成長しようともがく物語。2人での旅の形を探すのはアンデス山脈を越えるよりも、アタカマ砂漠を抜けるよりも難しい。日々喧嘩世界中の家族の輪の中で救われ、自身の故郷を思い、やがては自身の家族を形成していく10年のスパンで描いた、ドキュメンタリーロードムービー。今、目の前にある道をたどると世界と繋がっているという些細な、みなさんとの物語。

監督・撮影・編集:滑川将人
出演・撮影・アニメーション:長谷川亜由美
音楽・整音:DJ TARO(V.A.S.P)
プロデューサー:高野輝次、横川謙司
配給・宣伝:ニコニコフィルム
協賛:BMW Motorrad、有限会社タカハマライフアート
協力:株式会社PUNK.
2025年/119分/日本/ビスタサイズ/ステレオ/ドキュメンタリー
© NIKONIKOFILM
公式サイト:https://www.tandem-road.com

 

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