【コラム】『場所はいつも旅先だった』旅先で見つけるのは、景色より“人の暮らし”だった――五感で味わう癒しの記録|ドキュメンタリー映画[初心者]が観る!はじめての20本【第4回】
ドキュメンタリーに興味はあるけれど、どこから観ればいいのか分からない――
そんな“初心者の目線”から、国内外の作品を紹介していきます。難しい前提知識や専門用語には頼らず、作品の面白さと、ドキュメンタリーの見方の入り口を探っていきます。
第4回:『場所はいつも旅先だった』
旅先で見つけるのは、景色より“人の暮らし”だった――五感で味わう癒しの記録
こんな人におすすめ!
・今いる場所から離れてほっと一息つきたい人
・海外の街並みや暮らしが好きな人
・世界各国の食事に興味がある人
ドキュメンタリーゲージ(★5段階)
親しみやすさ :★★★★★
インパクト :★★☆☆☆
考えさせられる度:★★☆☆☆
いま観る意味 :★★★☆☆
今回ご紹介するのは、旅行をテーマにした映画『場所はいつも旅先だった』。エッセイストの松浦弥太郎さんが綴った文章、そしてそれを朗読する小林賢太郎さんの声と共にアメリカ・スリランカ・フランス・台湾・オーストラリアを巡る、目も耳も癒される作品です。
筆者は松浦さんのスッと心に入ってくる文章が好きで、『エッセイストのように生きる』などいくつかの作品を読んだことがあったため、この映画を見つけた時に「観ないわけにはいかない!」と思わず再生ボタンを押しました。この映画と同タイトルのエッセイ集もありますが、本作は松浦さん自身がオリジナルとして監督した作品です。
旅も筆者が楽しく生きていく上で欠かせないものの一つ。(日常生活では得られない刺激を求めて、急に旅に出ることもよくあります)この映画では一つの場所だけではなく、ゆったりした世界観の中でもいくつもの都市を回るので、お得に世界旅行をしている気分になれるのもポイントです。普通の旅行では行かないような場所にまで入っていき、カメラを向けられても人々は自然体。人間の温かさを感じさせてくれます。まさに旅の醍醐味ですね。
それぞれの国で“自分らしく”生きる人々
本作はただ単に街を歩いて、その国独特の雰囲気を描くだけではありません。その街に住む人物にフォーカスしている場面も多々あります。例えばアメリカのサンフランシスコでは、とあるダイナーのボックス席に座るおじいさんと若者の語りが。さらにはドラァグクイーンのヴァネッサも登場。店主が客に微笑むごく普通の一コマからも、人と人との関わりが生む奇跡のような瞬間が垣間見えます。
またスリランカのシギリアでは、自然の中だからこそ出会った人たちの印象が色濃く映し出されます。親子の後を追って藪の中を歩き続けると大きな川が現れたり、寺で修行している少年についていくと山の上からの絶景が広がっていたり、さらには悪魔祓いの儀式に遭遇したり。今自分がいる場所や自分の呼吸を感じる、まさに旅はマインドフルネスとも言えるでしょう。フランスのマルセイユでは漁師の2人が荒波の中で網を引き上げていく臨場感あふれる映像もあり、ゆったりとした生活だけでなく、人生は激しくも豊かな波のようなのだと感じられます。
夜から朝にかけて“街”を作る人々の生活が切り取られているのも印象的。公式ホームページによると、撮影はあえて早朝と深夜に行われたそう。多くの人が自分の仕事に集中する日中とは違い、朝には人々が動き出すリアルな瞬間が垣間見えるし、夜には自分の好きなように過ごす人々の喜びが見える。だからこそ安心できるような、温かな空気感が漂う作品となっているのでしょう。ずっと1人を追い続けるのではなく、あっさりとそのシーンが終わるのも独特で、そこに暮らす人の生活をぎゅっと詰め込んだ作品です。
「美味しいものは人を一瞬で幸せにする」
劇中の言葉にもあるように、人間にとって何よりも大切なのは「食」。サンフランシスコは、朝仕事に向かう前の人々が集うカフェから始まります。目玉焼きとベーコンという、至って普通の朝食プレートではありますが、見るだけでお腹がなるから不思議。カラフルなドーナツは味だけでなく彩りも楽しいです。またシギリアでは街の女性たちが営む家庭料理の食堂や、家族経営の朝食カフェも出てきます。どれも人の心がこもっているものでとても美味しそう……。マルセイユでは公園でムール貝を味わうおじさんたちが、ワインやパンも持参して簡易的ながらも食事を楽しむ様子にもほっこりします。
また何といっても美味しそうだったのは、台湾の料理。大量の空き瓶や料理を前に語らう仕事終わりの男性たち、麺類を頬張る男性や忙しく果物ジュースを作る女性など、賑やかな市場から屋台の様子まであらゆる台湾料理が映し出されていきます。家庭に招かれたシーンも、ぼんやりとした照明の動きがどこか夢のよう。メルボルンのカフェも、夜なのに話し声が響くゆったりした空間が心地良い。「食」は人との繋がりにもつながってくるものなのだと、しみじみと感じることができました。
どこをとっても忘れたくない言葉と、なんてことないはずなのに美しさが滲む景色の数々が散りばめられた本作。生活から奏でられる音も欠かせない要素であり、ドキュメンタリーだからこそ飾らない人間たちの営みを自分の肌で感じたような気持ちにもなります。ほっと一息つきたい時、コーヒーを片手に本作を観てみるのはいかがでしょうか?

文:伊藤万弥乃
海外映画とドラマに憧れ、英語・韓国語の勉強中。
『場所はいつも旅先だった』
2021年製作/78分/G/日本
配給:ポルトレ
劇場公開日:2021年10月29日
配信:Amazonプライム



