【東京ドキュメンタリー映画祭2023】『香港時代革命』舞台挨拶レポート&監督へインタビュー!「中国=中共(中国共産党)、中共=中国ではない。自分の愛着とか、郷愁とかっていうものをすべて、=中国、=中共としてしまうのは共感できないところ」

6回目となる東京ドキュメンタリー映画祭が12月9日(土)より開幕した。トップバッターを飾ったのは、『香港時代革命』。

本作は、2019年に香港で勃発した自由と民主化を求める大規模な抗議デモを記録を続けるトラック運転手や学生記者に密着し、激動の香港に生きる人々の姿を見つめたドキュメンタリー。日本人にとって最も身近な海外の一つ、香港。民衆の活気があふれ、グルメとエンタメに満たされた、アジア最強の貿易都市・香港が97年の中国への返還以来、50年は続けるといった「一国二制度」がいつのまにか有名無実化し、自由や民主主義が徐々につぶされていく過程は2014年「雨傘運動」、2019年~2020年の「民主化デモ」など数々の民衆運動で、映像によって世界に、そして日本にも衝撃をもって伝えられた。あれからどうなったのか?あれはいったいなんだったのか?

会場には、若い方から年配まで多くの方が駆け付け、映画と上映後のトークイベントを熱心に見入っていた。上映後には、平野愛監督が登壇し、舞台挨拶が行われた。

はじめに、平野は「皆さんの感想はいかがでしょうか。今こうして見ると、もう隔世の感がある感じがしますけれども、本来ならば佐藤もここに来て、皆さんにご挨拶させていただければと思っていたのですが、香港で明後日に香港区議会議員選挙があるということで、ちょうど今撮影に入っています。この映画は、2019、2020年の頭に撮っていましたが完成させたのは2021年で、私達は今も撮影を続けています。香港は本当に変わってしまいましたし、でも皆さんが見てくださったみたいにどこかで忘れないでいることっていうのが大事なのかなと、私自身も今日改めて映画を見て思いを新たにしたところです。本当にありがとうございました」と挨拶。

また、「私は93〜97年まで上海に留学していた間、香港への憧れをものすごく強く持っていました。だから、実際デモの現場に立ったときに、もう何というか世界が変わったような気持ちでした。憧れの香港がこんなふうになっているのか…っていう悲しさと、すごく複雑な気持ちでしたね。ああ足が震えるってこういうことなんだなとか、催涙弾がヒリヒリするってこういう感じなんだとか、それで目をこすると本当に目が開けられないんだとかっていう、人生でこんなことがあるのかなっていうことをいっぱい感じました」と取材時の体験と思いについて語った。

次に、司会者から「香港のデモや運動の記録というのは香港のドキュメンタリー映画としてありますが、この記録のすごく意味があるなと感じたところは、日本人が見た香港の記録となっているというところにあると思います。その距離感の近さなども感じたのですが、どういうふうな形で取材に行かれたのでしょうか」と聞かれると、平野は「現場にはいるんですけど、やっぱり日本人の距離感でしか撮れなかったですし、それでよかったというか、仕方がなかったというか、ただ私達はポールの後にとにかく着いて行くってことしかできなかったので、ポールの目線で日本人なりの、皆さんと感覚的に変わらない香港への距離感で撮れたんじゃないかなと思っています。」と話した。

続いて、「中国を応援する人たちといる場面もありましたが、そのあたりはどういう経緯で?」と聞かれると、平野は「これがいいのか悪いのか、私達はやっぱ上海にいたので、中国にも大変な愛情がありますし、私達が上海にいたっていうだけですごい親しみを感じてくれて、いろんなところに連れて行ってくれました。そのことを利用するわけではなかったんですけれども、あのおじちゃん、おばちゃんたちは本当に良い人なんですよ。ご飯をたくさんおごってくれたりとか、本当に優しい人たちで、彼らの気持ちも聞いてみたいし、彼らも私たちに言いたいっていう気持ちがあったと思うんですね。というのも当時はやっぱり民主派の皆さんの意見っていうのが全面的に出ていましたし、そういう打ち出しもありましたから。中立を取らなきゃいけないということをそこまで意識していたわけではなかったですが、やっぱりどこかであっち側の意見も聞きたいなっていうのもあり、それで彼らに着いて行きました。それはもしかしたら日本人だから、香港人じゃなかったから撮れた部分でもあったのかなと思います」と回答した。

最後に、平野は「私自身が思うのは、中国=中共(中国共産党)、中共=中国ではない、その図式ではない形で理解できないかなというふうにずっと思っています私は中国も好きですし、中国人のことも好きです。香港人も好きだし、香港も好きです。だから難しいんですけど、中立というような正しい言葉では言いたくないんですけど、自分が愛情を持っているところを全て“中共”でまとめられるのは、やっぱりある種中国共産党のやや卑怯なところかなとも思ったりします。自分の愛着とか、郷愁とかっていうものをすべて、=中国、=中共としてしまうのは共感できないところかなと思っています。」と自身の思いを熱く語り、舞台挨拶は終了した。

ちょうど先週、香港の民主化運動でリーダー的な役割を果たした周庭(アグネス・チョウ)さんが数年ぶりに情報発信し、「もう香港に戻るつもりはない」と事実上の亡命の意志を明確にした。「香港は恐怖に満ちた場所になった」と語る周庭さん、この3年で(世界の耳目がウクライナやパレスチナに集まっている間に、といっていいだろう)政府による民主活動家への個別圧力が強まったこと意味している。彼女は「国家安全保障を危険にさらす外国勢力と結託」した疑いで取り調べを受けてたが、メンタルに不調をきたしたという。先にカナダへの留学許可を得て香港を離れた。

これをもって「香港の話は終わり」だと思ってはいけない。今後は、舞台は世界に広がったとみるべきだろう。世界のニュースに注目し、必要に応じて声を上げていくことが民主主義社会に生きる我々の役目だ。香港、台湾、沖縄、東アジア情勢は日本に直結している。“対岸の火事”だった時代はとうに終わっているのだ。

ただ政治と同じ一方的な理解は分断を加速するだけだ。その意味で、「中国=中共ではない。」と語る監督の民衆視点のメッセージから、同じ人間として香港人・中国人に対する情報リテラシーを高めておくことが大事なのではないと思う。

※平野監督のインタビューはムービーマービーにて掲載中→こちら

『香港時代革命』
監督=佐藤充則、平野愛/2022年/117分/日本
2019年、香港では自由と民主化を求める大規模な抗議デモが勃発。警察の暴力に抵抗するデモ隊を、市民や学生の立場で支持し、撮影する人々がいた。しかし破壊行為への反感から政府支持の市民も現れ、デモは行き詰まる。分断の進む中、もがきながら記録を続けるトラック運転手や学生記者に密着し、激動の香港に生きる人々の姿を見つめる。

上映日:12月9日(土) 10:00 / 12月18日(月) 14:10

 

【東京ドキュメンタリー映画祭2023】
日程: 2023年12月9日(土)~12月22日(金)
場所:新宿 K’s Cinema
公式サイト: https://tdff-neoneo.com/
twitter: @TDFF_neoneo
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