「山形国際ドキュメンタリー映画祭2025」いよいよ開幕!D会議室が選ぶ注目の5作品をピックアップ!

1989年にスタートした山形国際ドキュメンタリー映画祭(YIDFF)。隔年で開催され、アジア最大規模を誇る本映画祭は、世界三大ドキュメンタリー映画祭のひとつとも呼ばれる存在だ。山形市を拠点に、映画館やホールを舞台に多彩な上映が行われる。今年2025年は10月10日から17日までの8日間、世界各地から集まった最新作とクラシック作品が一堂に会する。

映画祭の柱となるのは、世界中から応募された新作が並ぶ「インターナショナル・コンペティション」、アジアの新鋭作家を紹介する「アジア千波万波」、そして日本で制作されたドキュメンタリーを上映する「日本プログラム」。さらに震災や社会の記録を継続的に取り上げる「Cinema with Us」、過去の名作を再発見する「クラシックス」など、多彩な部門が設けられている。今年のプログラムには「戦後80年」「土地の記憶」「社会変動と日常」といったテーマが強く響き、ドキュメンタリーならではの問いかけを体感できる内容となっている。

今回、数ある上映作の中から、D会議室が注目する5本をピックアップしました!

 

『Below the Clouds』
部門:インターナショナル・コンペティション

監督:サブリナ・マザーニ/イタリア/114分

イタリアはナポリ、ヴェスヴィオ山の麓。街の地下には墓泥棒のトンネルが続き、古代邸宅のフレスコ画は跡形もない。明け方、震度3の揺れが人々の眠りを覚ます。消防署に届く市民からの電話の声。垂れ込めた雲の下、火口が噴煙を上げる。港に着岸した巨大な船からはシリア人の若者がウクライナ産の小麦をおろしている。商店街では、ティッティおじさんが、子供たちの勉強を見てくれる。ポンペイ遺跡では、東大チームが発掘にあたり、博物館の保管庫では、館員の照らす懐中電灯に彫像が浮かびあがる。火山の街の歴史と現在が闇の中に明滅する。

★おすすめポイント!
地層のように積み重なった時間を、そのまま映像で体験できます。発掘現場の音、港の喧騒、火山の静けさ――あらゆる“時間の層”が重なって、人間の営みの確かさが浮かび上がります。大きなスケールでありながら、暮らしの手触りを失わないのが印象的です。

『愛しき人々』
部門:インターナショナル・コンペティション

監督:タティアナ・ヒューエソ/チリ=スペイン

チリの刑務所に収監された女性たちが、撮影行為を禁じられた中で、携帯電話で密かに残した日常の光景。獄中出産した子供、離れて暮らす家族、恋人でもあり家族のようでもある収監仲間。これらのなにげない映像が消去され失われる危険に抗うため、監督はすべての映像を一度プリントアウトし再映像化する。複数の女性たちの証言と映像が混じり合い、粗い画素がインクに置き換えられたデジタルともアナログともつかない風合の画面が、女性であり、母であり、囚人でもある彼女たちの置かれた状況を親密に物語る。

★おすすめポイント!
カメラを持つことで、彼女たちは“語る力”を手にします。誰かに見せるためではなく、自分の生きた証を残すための記録。その映像には、報道では届かない温度と誇りが宿っています。見終わったあと、自分が見てきた世界の狭さに気づかされます。

『ノー・エクソシズム・フィルム』
部門:アジア千波万波

監督:ヤオ・ヨンチン/台湾

古いテレビ画面に映ったような、タイの都市の粗いイメージが悪夢的に重なり、悲観的な機械音声が囁き声で先人への罪悪感と未来へのおそれを吐露する。

★おすすめポイント!
明快なストーリーはなく、映像そのものが思考のように揺れ動きます。画面のノイズやブレが、記憶のざらつきをそのまま表現している。観るというより、映像に包まれるような体験。ドキュメンタリーの可能性を、まったく別の角度から示す作品です。

『うしろから撮るな 俳優織本順吉の人生』
部門:日本プログラム

監督:井上淳一

名脇役・織本順吉の晩年を、娘である中村結美監督が4年間にわたり記録したドキュメンタリー。約70年にわたり2000本以上の作品に出演し、日本映画を支えてきた織本だったが、家庭では不器用な父でもあった。娘はかつて抱いていた反発心をきっかけにカメラを向け、老いとともに変わっていく父の姿を見つめ続ける。それは、俳優としての終焉と、親子がようやく真正面から向きあうまでの歳月を刻んだ記録でもある。

★おすすめポイント!
織本の語りや佇まいには、年齢を超えた“表現者”の意地と優しさがあります。撮る側と撮られる側の信頼関係がそのまま画面に刻まれていて、静かながら強い余韻を残します。人を撮るとは何かを改めて考えさせる一本です。

「アメリカン・ダイレクト・シネマ短編集」
部門:アメリカン・ダイレクト・シネマ特選(オープニング上映)

1960〜70年代にアメリカで確立された“ダイレクト・シネマ”。演出を排し、現実の中にカメラが入り込むスタイルとして、ドキュメンタリー史に大きな影響を与えた。今回の特集では、その代表的な短編5本が上映される。

上映作品
『解体美術館』監督:D・A・ペネベイカー/1960/8分
『誰かに愛されなければ君は誰でもない』監督:D・A・ペネベイカー/1964/12分
『カットピース、1964/1965』製作:アルバート&デヴィッド・メイズルス/1965/9分
『プーナイル・コーナーの家』(『1PM』より抜粋)製作:D・A・ペネベイカー/1971/8分
『パノーラ』監督:エド・ピンカス、デイヴィッド・ニューマン/1970/21分

★おすすめポイント!
ペネベイカー、メイズルス兄弟、ピンカス――現代ドキュメンタリーの礎を築いた作家たちの短編を一気に観られる貴重なプログラムです。“現実をただ見る”という潔い手法の強さと、そこから生まれる緊張感。オープニングにふさわしい、記録映画の原点を体感できる特集です。

 

【開催情報】
「山形国際ドキュメンタリー映画祭 2025」
開催期間:2025年10月9日(木)~10月16日(木)
会場:山形市中央公民館、山形市民会館、フォーラム山形、やまがたクリエイティブシティセンターQ1 ほか
主催:認定NPO法人 山形国際ドキュメンタリー映画祭
公式サイト:https://www.yidff.jp

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