「東京ドキュメンタリー映画祭2025」12月6日開幕!台湾特集と追悼上映、“いま”を刻む記録映画が集まる。

第8回「東京ドキュメンタリー映画祭2025」が、12月6日(土)から12月19日(金)まで新宿K’s cinemaで開催される。今年は、長編・短編・人類学/民俗映像の各コンペティション部門に加えて、台湾ドキュメンタリー特集「台湾記録片」、そして映画祭ゆかりの作り手をしのぶ追悼上映という構成になっている。

プログラマー代表の佐藤寛朗は「日々変動していく“いま、ここ”を記録することの重さをあらためて感じる一年だった」とコメントしており、今年のラインナップはまさに“いま”をどう刻むかという視点が中心にある。

長編部門では、コロナ禍の中国・武漢で暮らす8人の声を記録した『UNVOICED』が登場する。語ること自体が制限されるような状況の中で、それでも残そうとした個人の体験をつなぎ合わせていく作品だ。国家安全維持法のもとで揺れる香港で、なお取材を続ける記者たちの3年間を追った『紅線 Red Line』も選出されており、報道という行為そのものが危険になる社会で、人はどこまで真実に踏み込めるのかを見つめる。

『UNVOICED』

英彦山にある「九州大学 彦山生物学実験施設」を4年かけて記録した『九州大学 彦山生物学実験施設』は、90年近い歴史を持つ研究拠点と、そこに集まる若い研究者たちの熱を、山の空気ごと残そうとする作品。宗教二世として生きる一人の詩人を3年間追った『詩人 iidabii~ある宗教2世の記録~』は、信仰、家族、言葉という引きはがせない要素の間で、どう生きていくのかを問いかける。

このほか、熊本・産山村の畜産家の暮らしと、仕事を次の世代につないでいく現実を描いた『村で生きる』、富山で林業に従事しながら音楽を手放さないW.C.カラスの日常を見つめる『浮浪調律』など、土地と生き方を記録した作品も並ぶ。大きなニュースにはならない日常を見続ける姿勢が、長編部門全体のトーンになっている。

短編部門はさらに生々しい。沖縄で今も続く戦没者の遺骨収容ボランティアの活動を捉えた『沖縄 戦没者遺骨収容 2025―ボランティアの組織的調査―』は、戦争が「歴史」ではなく「現在進行中の作業」として続いていることを示す作品だ。辺野古の海上抗議と裁判闘争を追う『水平へ漕ぎだす 辺野古海上行動と裁判闘争』も、長期化した問題に向き合い続ける人たちの視点から描く。

『沖縄 戦没者遺骨収容 2025―ボランティアの組織的調査―』

群馬県で起きた「朝鮮人追悼碑」の撤去を記録する『森、すきま』は、記憶が物理的に消されていくその瞬間を映し出す。新大久保で暮らす高齢の在留コリアン女性たちの生活に寄り添う『Blessing Lies Here』、昭和の団地で暮らす高齢者と新しい住民の距離を見つめる『憧れの暮らし、常盤平団地』、子どもたちが自分の母語を守るための居場所づくりを追う『はざま – 母語のための場をさがして-』など、日本社会の中で「見えにくい現実」をケアの現場から捉える作品もそろった。

さらに、ALS患者と支援者の関係に迫る『because time is life』、完走困難と言われる超過酷レース「バークレー・マラソンズ」に挑むランナーを追う『メインクエスト2 ~穢れなき負け犬の遠吠え~』、そしてAIが“外れ値”として切り捨ててしまう声を拾い直す『AIが消し去る声』など、身体と社会の境目を問う作品も並ぶ。

『AIが消し去る声』

人類学・民俗映像部門は、土地と文化がどう続こうとしているのかに焦点が当たる。中国・雲南省ワ族の集落「翁丁」を10年かけて見つめた『翁丁 The Last Tribe in China』は、移住政策や観光開発、そして壊滅的な火災まで、集落そのものが変わっていく過程を追い続ける。マサイの戦士としての通過儀礼「エウノト」を記録した『マサイ・エウノト』、カナダ先住民の祭り「パウワウ」を舞台裏の関係性まで含めて描く『天幕の下で』、スイス・アルプスの酪農の現場に入り込む『コロストラム』など、暮らしと儀礼が切り離せない場所を丁寧に見ていく作品が並ぶ。

『翁丁 The Last Tribe in China』

中央アジアの伝統競技「ブズカシ」に女性が参戦し、自分たちのチームをつくろうとする姿を追う『ブズカシ―男の地のアティルキュル―』、キルギスの山間部で主婦たちが自分たちのサッカー大会を立ち上げていく『キックオフ』など、従来「男性の領域」とされていた場に女性が居場所を切り拓いていく記録もある。

今年の映画祭では、台湾ドキュメンタリーを特集する「台湾記録片」も大きな柱になる。日本統治時代の台南で青春期を過ごした女性たちが、自分たちの人生を自分の言葉で語る『夢の中の故郷』、台湾の先住民族・タイヤル族による日本の植民地支配への抵抗を掘り起こす『火種を再燃させる-1900~1907年のトパ戦争-』、元日本兵として戦争と抑留を生き抜いた台湾出身男性の証言をたどる『いつの日にか帰らん』などが上映される。各地の独立系書店とそこに集まる人々を記録した『ポエトリーズ・フロム・ザ・ブックストアズ』など、文化を受け継いでいく場に光を当てた作品群も含まれており、日本側の観客にとっても「遠い国の話」ではないという構成になっている。

映画祭は、ゆかりの深い監督やスタッフをしのぶ追悼上映も行う。上映されるのは、過去の長編部門グランプリ受賞作である『Yokosuka1953』と『香港時代革命』の2本。

『Yokosuka1953』は、戦後の横須賀で生まれ、母と離ればなれになった女性が自分のルーツをたどっていく記録で、上映後には木川剛志監督と映画活動家・松崎まことによるトークが予定されている。『香港時代革命』は、2019年の香港民主化運動のただ中で、市民たちがどのように声を上げようとしたのかを追った作品で、こちらも上映後にトークセッションが行われる予定だ。映画祭がこれまで共に歩んできた人々の時間を、観客と共有する場になる。

『Yokosuka1953』

東京ドキュメンタリー映画祭2025 

会期:2025年12月6日(土)〜12月19日(金)
会場:新宿K’s cinema
形式:各回入替制・全席指定
料金:一般1600円/大学生・高校生1400円/シニア1200円
チケット販売:上映3日前の0:00〜上映開始30分前まで、劇場サイトで販売
特別鑑賞券:3回券(3600円)。劇場窓口と映画祭事務局で販売(予定数終了しだい販売終了)。Web予約では使用不可で、窓口で座席指定券に引き換える

戻る