「山形国際ドキュメンタリー映画祭 2025」主要賞が決定!大賞は『ダイレクト・アクション』、小川紳介賞は『パラジャーノフ、ゆうべはどんな夢を見た?』
山形国際ドキュメンタリー映画祭2025(YIDFF 2025)の各賞が発表され、10月15日(水)に表彰式が行われた。映画祭は10月9日(木)から開催され、今年は14部門・131作品を上映。2つのコンペティション部門(インターナショナル・コンペティション、アジア千波万波)には、135の国と地域から2,676本の応募が集まり、その中から選ばれた計35作品が審査対象となった。
インターナショナル・コンペティションの最高賞であるロバート&フランシス・フラハティ賞(大賞)には、ギヨーム・カイヨーとベン・ラッセルが共同監督した『ダイレクト・アクション』(ドイツ/フランス/韓国/2024/212分)が選ばれた。審査員は本作について、闘争の現場そのものを「その場の時間ごと提示する映画」だと評価し、監督たちが長く関わってきた運動を、記録ではなく現在進行形の声明として映し出していると述べている。長い観察の積み重ねが、理想やスローガンではなく「生きられるユートピア」としての共同体を体感させるという点が高く評価された。
同部門の山形市長賞(最優秀賞)は『ガザにてハサンと』(監督:カマール・アルジャアファリー)。監督が過去に撮影し忘れていたミニDVテープを掘り起こすことで、破壊と抹消のただ中にある土地と人の記憶をもう一度呼び戻そうとする作品だとして、個人的な記録が共同体の歴史そのものになっていくプロセスが評価された。
そのほか、でん六賞(優秀賞)には『公園』(監督:蘇育賢)。公共空間を、管理対象としてではなく、人が集まり、語り、ただ一緒にいる場所として描き直す視点が受賞理由として挙げられている。ひとつひとつの会話やふれあいが、フレームの温度として残っていく作品だという。
フレックスインターナショナル賞(優秀賞)は『愛しき人々』(監督:タナ・ヒルベルト)。収監された女性たちが自分の言葉とスマートフォンの映像で自らの経験を語る構成を取り、外側から説明するのではなく、当事者たちの視点そのものを観客に委ねるスタイルが支持された。
審査員特別賞には『亡き両親への手紙』(監督:イグナシオ・アグエロ)。家族の記憶や喪失を、ひとつの家という閉じた場所の中で静かに呼び起こす私的な手紙のような作品だとされた。またスペシャル・メンションには『彷徨う者たち』(監督:マロリー・エロワ・ペスリー)。カリブ海の離島で、社会の枠から外れた人々の日常を丹念に追い、分断された世界の片隅に立つ人間の姿に微かな祈りを見いだした、と評されている。
アジア千波万波部門では、もっとも重要な賞である小川紳介賞に『パラジャーノフ、ゆうべはどんな夢を見た?』(ドイツ/2024/81分、監督:ファラズ・フェシャラキ)が選出された。審査員は、日常の会話や家族のやり取りのなかから、ユーモアと親密さをもった“生きた記録”が立ち上がってくる点を評価している。
同部門の奨励賞では、山形新聞・山形放送賞に『木々が揺れ、心騒ぐ』(監督:イ・ジユン)、東北電化工業賞に『炭鉱奇譚』(監督:宋承穎、胡清雅)が選ばれた。『木々が揺れ、心騒ぐ』は、再開発によって長年暮らした土地から人々が追い出されていく現実を、住民同士の会話やその場の空気ごと見つめる作品として紹介されている。『炭鉱奇譚』は、炭鉱労働の歴史や未払い賃金の問題に、土地に語り継がれてきた“怪談”のイメージを重ね合わせる独特のアプローチが特徴的で、「ホラードキュメンタリー」とも言える語り口が印象的だという。
また、市民賞には『ハワの手習い』(監督:ナジーバ・ヌーリ、ラスール(アーリ)・ヌーリ)が選ばれている。
今年の映画祭は、特集上映や交流プログラムも含めて連日大きなにぎわいとなった。「アメリカン・ダイレクト・シネマ」「パレスティナ ─ その土地の記憶」「ともにある Cinema with Us」など、世界各地で起きている現実と、そこに生きる人々の視点を観客に直接手渡す企画が並んだ。映画祭の夜の場として復活した「新・香味庵クラブ」も毎晩満席に近い状態で、観客、監督、映画関係者が作品をめぐって議論を交わす場になったという。10月15日時点での参加者数は約2万2千人と発表されている。
主な受賞結果一覧(敬称略)
【インターナショナル・コンペティション】
ロバート&フランシス・フラハティ賞(大賞)
『ダイレクト・アクション』 監督:ギヨーム・カイヨー、ベン・ラッセル
山形市長賞(最優秀賞)
『ガザにてハサンと』 監督:カマール・アルジャアファリー
でん六賞(優秀賞)
『公園』 監督:蘇育賢(スー・ユーシェン)
フレックスインターナショナル賞(優秀賞)
『愛しき人々』 監督:タナ・ヒルベルト
審査員特別賞
『亡き両親への手紙』 監督:イグナシオ・アグエロ
スペシャル・メンション
『彷徨う者たち』 監督:マロリー・エロワ・ペスリー
【アジア千波万波】
小川紳介賞
『パラジャーノフ、ゆうべはどんな夢を見た?』 監督:ファラズ・フェシャラキ
山形新聞・山形放送賞(奨励賞)
『木々が揺れ、心騒ぐ』 監督:イ・ジユン
東北電化工業賞(奨励賞)
『炭鉱奇譚』 監督:宋承穎(ソン・チョンイン)、胡清雅(フー・チンヤー)
市民賞
『ハワの手習い』 監督:ナジーバ・ヌーリ、ラスール(アーリ)・ヌーリ
審査員団は総評として「異なる現場、異なる語り方、それぞれの切実さに触れることができた。議論は長く、最後まで簡単にはまとまらなかった」とコメントしており、今年のラインナップが持っていた多様性と緊張感を強調している。
【開催情報】
「山形国際ドキュメンタリー映画祭 2025」
開催期間:2025年10月9日(木)~10月16日(木)
会場:山形市中央公民館、山形市民会館、フォーラム山形、やまがたクリエイティブシティセンターQ1 ほか
主催:認定NPO法人 山形国際ドキュメンタリー映画祭
公式サイト:https://www.yidff.jp
画像提供:山形国際ドキュメンタリー映画



