ドキュメンタリー映画『小屋番 八ヶ岳に生きる 劇場版』完成披露試写会レポート 「人間が生きるって、どういうことかなと思える映画」

『小屋番 八ヶ岳に生きる 劇場版』完成披露試写会が行われ、上映後に舞台挨拶が実施された。MCを務めたぴあ編集部の中谷祐介氏は、イベント冒頭で「これは本当にスクリーンで観てほしい作品」と話し、大きな画面で観ることがふさわしい映画であると観客に呼びかけた。

本作は、TBSドキュメンタリー映画祭で上映されたバージョンをもとに再構成された劇場版となる。プロデューサーの永山由紀子は、映画祭で上映した時点でも完成度は高かったとしたうえで、映画祭の規模に合わせて削っていた部分があったことを明かした。劇場版では、深澤慎也監督と相談しながら、その部分を戻し、深澤が撮りためていた映像の中から新たに使ったカットもあるという。ラストについても白馬まで足を運び、「もう少し広げて、続きもできるかなという作りにはした」と話した。

劇場版制作のオファーを受けたときの心境についてMCから問われると、深澤監督は「こうやって監督と呼んでいただけること自体が違和感というか、恐れ多すぎるというか」と照れ臭そうに話す。これまでドラマやドキュメンタリーの現場に音声スタッフとして関わってきた立場で、自分は場を与えてもらった側だとしたうえで、「いち技術スタッフの僕を永山さんが見つけてくれなかったら、ここまで来れなかった」と語り、オファーを受けたときもどこか他人事のような感覚があったと振り返った。一方で、「菊池先生や永山さん、信じてくれた人たちが喜んでくれたのが一番よかった」と話し、周囲の反応が何よりうれしかったと明かした。

作品の中心に描かれる山岳写真家・菊池哲男には、完成した映画を改めて観て感じたことについてMCから質問が投げかけられた。菊池は、本作への参加について「最初は映画に出ませんかと言われても、正直よく分からなかった」と振り返り、当初は情熱大陸のような企画なのかと思っていたと話す。その後、話を聞いていくうちに自分が関われる部分が思っていた以上にあると分かり、撮影に同行することになったという。取材中には天候を見て「この日に行かないと稜線が撮れない」と判断し、実際に撮影に出たこともあった。「そういう経験上で、役に立てたのかなと思いました」と語った。この話を受けて深澤監督は、「菊池先生なくして映画は成立しなかった」と話し、雲が多く諦めかけた場面で「もう少し粘ったほうがいい」と助言をもらったことや、撮影時の構図についてアドバイスを受けたことを挙げた。映像では撮影が難しかった夜の山小屋や星空についても、菊池の写真が使われており、「映画にとってすごくいいアクセントになっている」と続けた。

企画の成り立ちについて話題が移ると、永山プロデューサーは、最初に菊池から八ヶ岳が「コヤガタケ」と呼ばれていることを教えてもらったことが発想の出発点だったと明かした。菊池は、その呼び方について、山小屋の人たちが喜んでいるのか、揶揄として受け止めているのかは分からないと前置きしたうえで、八ヶ岳は一つ山を越えると次の山小屋があるほど山小屋が多い場所だと説明する。競争もありつつ協力もある、その関係性が八ヶ岳の特徴だと語った。

ナレーションを担当した一双麻希には、ナレーションという仕事への思い入れについてMCから質問が投げかけられた。一双は、本作がナレーションの仕事としてはほぼ初めての経験だったと話し、もともと深澤が手がける映像制作チーム「Tokyo Climb」の活動の中で、八ヶ岳の映像制作にナレーションとして関わってきたことに触れた。仕事としてナレーションを担当するのは今回が初めてだったというが、そこからドキュメンタリーになり、さらに映画になるかもしれないと聞き、「一番大好きで、一番よく行く八ヶ岳が映画になる。そのナレーションを自分ができるのは本当に光栄だった」と語った。きれいな映像が上がってくる中で、しっかり応えなければという気持ちで収録に臨んだと振り返った。

続いてMCから、深澤監督がこれまで手がけてきたYouTubeチャンネル「Tokyo Climb」と本作との関係について話が振られると、永山は、これまで積み重ねてきた映像制作があったからこそ、山小屋の人たちとの関係が築け、取材の際にも自然な姿を撮ることができたと話す。菊池も、今回の撮影は少人数で行われ、監督自身が三脚やカメラを持ち、自身も出演者でありながら荷物を自分で背負って山に入ったと語り、そうした現場のあり方が作品の雰囲気につながっていると話した。

また、ナレーションに東野幸治を起用した理由についてMCから問われると、深澤監督は、本気で山が好きで、真剣に向き合っている人にお願いしたかったと説明した。「Peak Hunt 東野登山隊」の動画を観て、登山そのものよりも、訓練している姿に惹かれたことがオファーのきっかけだったと明かした。

映像を観るととてつもなくスケールの大きい現場に見える、というMCの言葉に対し、深澤監督は「スケールは全然大きくないです笑」と返すと、永山プロデューサーも「むしろ小さい」と続けた。さらに菊池が「単に予算がなかっただけ」と冗談めかして応じ、実際には少人数・限られた機材で撮影していたことが明かされると、映像の印象とのギャップに会場からは笑いが起こった。

最後に一言ずつメッセージを求められると、菊池は「自分が主役だと勘違いされることがあるけれど、主役は小屋番」と話し、作品を楽しんでほしいと呼びかけた。一双は、山と出会って人生観が変わった自身の経験に触れながら、「その力をこの映画が映し出していると思う」と語った。深澤監督は、これから劇場公開が始まることに触れ、広めてもらえたらうれしいと述べ、永山プロデューサーは、山が好きな人だけでなく、現代社会に生きる人たちにも観てほしいと話し、舞台挨拶を締めくくった。

 

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『小屋番 八ヶ岳に生きる 劇場版』
2026年1月9日(金)より、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国順次公開

監督・撮影・MA:深澤慎也(TBS ACT)
出演:菊池哲男(山岳写真家)
ナレーション:東野幸治 一双麻希
製作:TBS/配給:KeyHolder Pictures/宣伝:KICCORIT
2026年/日本/85分/5.1ch/16:9
©TBS

公式サイト:https://koyaban.com
公式X:@koyaban_movie

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